モデル更新動画が無事に投稿できたので、簡単なメイキングや制作過程の話を残しておこうと思います。
【目次】
①ネタ出しからプロットづくりまで
去年の12月に皇子ベクターの二重腰布の物理設定を入れ直そうと決意したところから始まりました。
モデリングに関してはまた別でまとめようと思うので今回は触れませんが、遊戯王MMDerさんの集まるDiscordサーバーにいつもお世話になっています。ありがとうございます。
せっかく腰布の物理を強化したのだからただモデル更新のお知らせだけして終わりにはしたくない。布のひらみを見てほしい...という思いで更新モデルの動画づくりを開始。
嘘です。
Twitterをフォローしてくれている人には更新のお知らせができるのですが、恐らくほとんどの方がTwitterまでは見ていないだろうと考えたときに動画を出すしかねえ...と思い至っただけです。
曲決めはだいたい2パターンで、曲から考える(いわゆるイメソンを使用する)か、キャラ(モデル)とモーションの相性で決めるかです。
「とりあえず好きな曲を推しに踊らせたい!」とか「いろんな作品の推しを並べたい!」ができるのがMMDの良さであり、そういう文化も見る分には肯定的に見ていますが、原作にストーリーのある二次創作で「このキャラ(作品)でなければならない理由」がないものを作るのは個人的なポリシーに引っかかるのであまりやりません。
前者の場合は普段からイメソンっぽい曲や歌詞をメモっているので、そこから引きずり出してきます。
後者の場合はこの動きはこのキャラに似合うなとか、今回は物理演算を魅せたいからターンの多いモーションにしようとかそんな感じです。
今回は前者から、Azari様のShadow Shadowをお借りしました。
読まなくていい。 → 「悪いのは賽か 知る由もない」がもう生まれた時点から運が悪かったとしか言いようがないベクターの人生っぽい。一国の皇子として生まれてなければ、ドン・サウザンドに目を付けられていなければ、敵がナッシュでなければ......。「暴いて喰わずとも中身はnull」は 真月なんてほんとはいないんだぜ~ ってニタニタしてるベクターっぽい。中身はnull = ゼロの = 零。あとそんなベクター自身があれだけキャラ濃いくせに中身空っぽなとこにも被ってくる。「笑顔で絆したら迷わずkill」はもう96話までが頭をよぎりますよね......私はよぎりました。「潰せジュブナイル」も真月として遊馬達を踏みにじったことがよぎりますがそれだけじゃなく、実は自身のジュブナイルも潰されていることの皮肉っぽくて好きです。「捨てられた影が踊るバラッド」もバリアンっぽい。アストラル世界から捨てられたものたち、ゴミ溜めみたいに思っているので。最後の4フレーズはもう正道皇で終わろうってすぐ思い至りました。邪道皇の中で押し殺された正道皇。「鉛に染まった右手が痛い」、皇子がつけているのは左手ですが、母上と廊下で話しているシーンではつけていないものなので、そういう意味付けを勝手に感じてしまいます。いろいろ書きましたが、ベクターを一言で表すとしたら「孤独」だと思っているので、「孤独だ」が何度も出てくる時点でもう全体的にベクターっぽさを感じるんですけどね。
曲を決めたら大まかなプロットづくりです。
メモ帳に歌詞を用意して、どのパートで誰を登場させるかを書いていきます。
歌詞の一致具合で決めたい自分と、原作ストーリーの流れを無視したくない自分の妥協点を見つける作業です。
後から変更することもありますが、ここでちゃんと悩んでおくと楽。
キャラを決める段階で画面の構成も思いつくことがかなり多いのでそれも近くにメモしておきます。あとパート分けのフレーム数(例:1234F~3456F)も一緒に書いておいた方がいいです。
ここまで決まったら細部を考えていきます。
具体的には「そのシーンで与えたい印象」「使用ステージとアクセサリ」「表情」です。
「そのシーンで与えたい印象」
リアル調にするかトゥーン調にするかに関わってくる問題です。
シェーダー決めにも関係します。
今回の動画では不気味さ(影)・寂しさ(孤独)・不安定さ(ギャップ)を意識しています。トゥーン調ではどうしてもポップになりがちなのでリアル調の動画にしました。
リアル調と言えばRay-MMDかsdPBRだと思うのですが、sdPBRの方がRayより更にリアルな質感、影が出るのでsdPBRを使用しています。
Rayは完全なリアル調ではなく、リアル風って感じがするので、リアル調だけどあんまり怖くしたくない!ってときはRayのがいいかもしれません。
逆にクレジットはギャグのつもりで作ったのでトゥーン調です。
ナッシュとベクターのなんか勢いある動画作りて~~~と思っていたところに、フォロワーさんがトゥーン影エフェクトを配布してくださったため即決しました。
トゥーン調のシェーダー選びは使いこなせるならmsToonが良いかな~と思っているのですが、勉強不足なので複雑な設定や前準備のいらないものをお借りしています。
「使用ステージとアクセサリ」
後から変更することが多いですが、動画制作を始めてから一々必要なものを探しに行っていると、頭の中にあるイメージの流れが途切れてもったいないので、すぐ取り出せるように先に用意しておきます。
ちょっとでも使うかも...と思ったら用意しておきます。
「表情」
この時点でなくても大丈夫ですが、顔というのはやはり一番視線を集める部分ですし、印象を左右するのであとからイメージをごちゃごちゃにさせないという意味でも先に決めておきます。
本編よりクレジットの方が分かりやすいので引き合いに出すと、シャークさんは「無表情~呆れ」で、ベクターは「なんか楽しそう」です。
シャークさんはともかく、ベクターまで暗めの顔させると勢いがなくなるというか面白くないので楽しそうにしてもらいました。多分なんかあったんでしょう。知らんけど。
②各シーンの演出意図
ここからようやくMMDでの作業に入ります。
メモ帳を見つつ、用意したものを配布者さんに感謝しながら流し込んでいきます。
無ければ作れとは言うが、MMDに関しては小物まで一々作ってたら絶対完成しない。
既にプロットやイメージは決まっているのであとは感性頼りです。
後述しますが、好きな写真家やイラストレーターの作品を個人用にクリップしておくと詰まったときに役立ちます。
演出に関しては絶対はないので今回の動画の例だけあげておきます。
だいたいTwitterで呟いてたやつです。
暗いので見えにくいけど邪道皇は実は海賊船で踊ってる。真月は87,88話のギラグに呼び出された場所を意識して廃工場で、バリベクに変わる直前の羽が生えるとこはもちろん96話、水かさが増して赤い海(悪意の海)にカメラが潜るとバリベクになっている。
真ベクはモチーフとなるものや記号、個性が一番無い存在だと思っているので、白くて何もない部屋。皇子や真月への切り替わりは、もちろん画面を華やかにする意図もありますが、ベクターのあんなにころころ顔を変えられるとこ好きだな……という演出です。
切り替わるところ(間奏抜けた後のシーン)は一回目は切り替わり時に色収差やノイズが入ってるんだけど、二回目はシーンチェンジが入らず滑らかにすっと切り替わる。これは編集ミスじゃなくて、個々のキャラがもはや仮面ですらなくなって混ざりあっちゃってない?みたいなアレ
それからスポットライトを使用している理由ですが、これももちろん画面の華やかさとか、シャドウシャドウという曲をお借りしてるリスペクトで“影”をメインに演出したいだとかもあるんですが、スポットライト理論と永劫回帰の類似性について考えてたときに思いついたので一応…そういう意味もあったり。
全然違う説ではあるんですけど“今”への注視という点、普段ぼくらが感じている時の流れとは違う時間の捉え方という点で、ベクターのこと考えるときにときどき思い出している概念です。永劫回帰はナッシュとベクターの古代決闘でウロボロスが使われた時点で当たらずも遠からずだとおもってます。
スポットライト理論は引用すると「まるで時間(過去・現在・未来)がみな舞台役者のように空間という一つのステージに同時に存在しており、そこにスポットライトが当たり、過去から現在へ、現在から未来へ…とスポットライトが移動していくという理論」なんですが、この例でもそうですし、ぼくがスポットライト理論の存在を知った好きな映画でも説明の例に演者が使われていて、あっ!ベクターっぽい!ておもったんですよね。
③エフェクト構成
【sdPBR】 メイン。あとで解説。
【空中に漂う埃 / A-screen / BREAK THE COLOR / ScreenTex改変_動く入射光 / msGradation / msPowerDiffusion / msReplaceColor】 だいすき。いつも入れるやつ。
【ikBokeh】 被写界深度系エフェクトはこれかLiteDOFをよく使う。
【fluid2D】 マジでだいすき。これなかったら生きてない。
【SimpleUnsharpMask】 シャープはMMDで入れて、動画編集でもう一回かけるくらい好きです。
【ikClut改変 原液・殺痲】 自作ikClut改変エフェクト。好きすぎる。自己センス愛。
なんか少なく見えるのはsdPBRに付属しているエフェクトでできるだけ完結するようにしているためです。
④sdPBRの設定
個人的にsdPBRのずば抜けて優れている点はライトだと思っているので照明やライティングにめちゃくちゃ気を使っています。
MMDというより、Blenderとか触ってる印象に近いかもしれない。
簡単にsdPBRで画面を作っていく流れを説明するとこんな感じです。(マテリアル割当まではとてもわかりやすい画像が同梱されているので省略します。)
skybox(コントローラー)の設定をする
sdPBR(コントローラー)の設定をする
MMDの照明を50くらいまで下げ、だいたいの光の方向を決める
広く明るく照らすものや、メインのものから順番にライトを置いていく
sdPBR付属エフェクトを入れて彩度や明度、コントラストなどを確認しながらライトを一つずつ調整する
sdPBR付属ではないエフェクトを入れて調整。
以下、真月パートのskyboxとsdPBRの設定値です。
【DaySkyboxDisplay】
見えなくする 0.0 前方散乱度 0.13 フォグ濃さ 0.54 フォグ距離 0.22
レイリー高度 0.59 レイリー密度 0.61 ミー高度 0.72 ミー密度 0.59
地面H 0.3 地面S 1.0 地面V 0.34
【sdPBR(シーンによって変更。数フレーム毎に弄っている数値もあり)】
暗く 0.2 ライト明るく 0.22 環境色暗く 1.0 滑らかシェード 1.0
影を薄める 0.6 SSDO濃さ 1.0 SSDO半径 1.0 SSDO強化 0.35
散乱(濃) 1.0 散乱(暗) 0.1
メインのライトも追加ライトで作った方が個人的には楽なので、初めに暗くしておいてライトで照らしていく感じです。
ボリュームライトを多用してます。煙つきはあんまり使わない。
ライティングはそれだけで一本書けそうなくらい書くことがあるので今回は飛ばします。
色の出方、影の落ち方、光の当たりかたは気になるところだけ材質ごとに設定するので、全体の雰囲気重視で決めていきます。とにかく画面から離れて見る。
全体を優先した場合に良くない影の落ち方をするもの(主に顔)や、ライティングによって質感が出なくなってしまうものは海底油田王様が配布されているマテリアルを割り当て、同梱のコントローラーでシーン毎やカメラ毎(例えば引きと寄りで変える)に調整します。
ここら辺も後ほど別の記事で......
続いてエフェクトについて。
sdPBRとの相性を考えると同梱されているエフェクトでできるかぎり調整した方がいいような気がするので使えるものは使っています。
以下、使用エフェクト。
sdToneMapper
sdFXAA
sdDiffusion
sdEyeAdaptation2
sdToneMapperは色をいい感じにしてくれるやつです。ほぼ必須らしいのでとりあえず入れてます。
現時点の最新配布ファイル内には4種類のToneMapperが入っているので、一つずつ入れて確認してみて、一番理想に近くなったものを採用します。今回はノーマルなやつ。
sdFXAAはギザギザ感を減らしてくれるやつです。ギザギザしててもいいことないので入れる。
DiffusionはsdPBR同梱のものをうっすらかけた上で、ましましさんのDiffusionでさらに強調したいところだけ拡散されるようにコントローラーで調節する...といったことをしています。sdDiffusionを挟んだ方がなんとなく質が良い気がするので。
sdEyeAdaptation2はカメラで言うところのAutoExposure(自動露出補正)と同様の働きをしてくれるらしいやつです。コントローラーと一緒に入れます。
【設定値(真月パート)】
(前半) 明順応速度 0.8 暗順応速度 0.8 明順応しない 0.84 暗順応しない 0.84
(後半) 明順応速度 0.09 暗順応速度 0.08 明順応しない 0.84 暗順応しない 1.0
正直よくわかってないので上げたり下げたりしながら何度も再生して、一番しっくりくるところを狙っています。ライトの置き方や光の明るさなどによって変わると思います。
⑤参考にしたもの
参考と言っても、迷ったときに感性をチューニングするために素敵な作品をぼーっと拝見してる感じなのであんまり寄ってない気がします。
邪道や真月のシーンの光と影のコントラスト
エドワード・ウェストンらへんの、ストレートフォトグラフィの写真。
バリベクのシーン
蜷川実花さんの写真を参考に色味を調整。
歌詞入れ
他の方のShadow Shadowの動画と、youtubeで見つけた好きな文字PVなど。
まとめ
ほんとはもっとやりたい事があったけど、時間かけすぎられないのと、次のハードルを上げすぎたくないのとでやめました。
MMDでの作業だけ書きましたがこのあとAviutlで色味調整や歌詞入れをし、そのあとスマホに投げてスマホの標準機能でも調整しています。
画質は少し落ちますが、画質よりも繊細な雰囲気づくりを大事にしているので仕方のない犠牲ということで諦めてます。なにかいい方法があれば教えてください。
そろそろベクター以外の動画も作りたいね。
気が変わらなければ次はIVのビジュアルを堪能する動画を作る予定です。
Comments